ムゲン22
「ん……」
「気がついたか」
気がつくと、視界には見慣れた天井が飛び込んできた――高杉の屋敷。真っ白な俺の部屋。
俺に声を掛けたのはこれも聞きなれた、長髪の男の声。
「……俺…」
「連れて帰ってきた。…あの日から3日経ってる。」
「…そう」
あの日、というのは俺が病院で暴れた日のことだろう。
「…覚えているか?あの時のこと」
「ん…覚えてる。」
クスリのせいでICUの人間を次々殺そうとしたこと。
そこに土方が来て――
「!土方は…ッ;!?」
起き上がろうと腹に力を入れた瞬間、激痛に襲われて再びベッドに沈む。
「無理するな。3日しか経ってないんだぞ。傷もまだふさがっていない。」
「そんなことより…土方は…;?」
「……さぁな」
「ひじか、た……おれ、おもい…つ、いた…」
「バカ…ッ;!喋らなくていい…;!!」
「やりたい、こと…ある……おれ…お前と、」
「ぎんと…」
「いっしょ、に……ジジ、ィ…に…なり…ぃ……」
「銀時――――ッ;!!」
「…オイ。」
意識を失った銀時を抱き俯いたまま、土方が桂に言う。
「…コイツを、助けられるのか。お前らに――高杉に返せば、コイツの命は救えるのか?」
「…100%、とはいえないが…ココに入院させるよりははるかに可能性は高い。」
「――…頼む」
銀時を抱き上げて桂に手渡す。
軽すぎる銀時の体。真っ青な顔。
これは急がなければ本当に危ない。
「…いいんだな?」
「……コイツを死なせないでくれ。頼む」
「あとのことはわからない。ココに帰ってきて、高杉がお前の治療に当たった。さすがだな。3日で意識を回復させるとは。」
「……」
高杉の治療のことなど正直どうでも良かった。
それより土方だ。
死にかけた俺を助けるために、土方は俺を高杉に返した。
土方もわかっているはずだ。一度高杉の元に返せば、俺はおそらく、2度と土方には会えない。
それに、土方自身も一生、高杉に追われることになる。
「…俺は…」
「?」
「……あのまま、死んでも良かったのに。」
土方の腕の中で死ねたのなら、本望だったのに。
「…銀時」
「…何?」
桂が銀時に1枚の紙を手渡す。
それは、誰かの名刺のようで。
「!コレ…」
「あの男は、歌舞伎町でホストをしていたらしい。店では売り上げが常にトップ。固定客も随分付いていたらしいが、先日突然店を抜けたと…ナンバー2の男を連れて。」
「……」
土方十四郎――
名刺には、カメラに向かって瞳孔を開いて、喧嘩を売っているようにしか見えない土方の写真、名前、携帯の番号が書かれている。
「そうだったんだ…」
「…俺が言えた立場ではないが…」
「…?」
「あの男の気持ちも、わからなくはない。…お前を死なせたくなかったのだろう?それは、お前と2度と会えなくなるよりも、奴にとっては、辛いことだったんだ。もしお前が奴の立場だったなら…どうしたと思う」
「………同じように、しただろうな」
「そういうことだ」
悔しいが、桂にはすべてお見通し、らしい。
そして、続けてこう言った。
「でも、お前の気持ちも、わからなくはない」
「あー…うぜぇー…」
「あのー…」
「あー…タリィでさァ…」
「もしもしー…;?」
「あー…」
「いい加減にしろやァァァァァ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた。
「あんたら何のつもりですか!!3日前ひょっこりまた現れたと思ったら勝手にうちに居座って;!俺会社辞めたから2人も養う余裕なんかないですよ;!?」
「別に養ってもらおうなんざおもってねぇよ」
「俺は思ってますがねィ」
「出てけ――;!!」
銀時を桂に返して3日。
土方と沖田は先日世話になった山崎の家に転がり込んでいた。
歌舞伎町はもちろん、高杉の家にももう近づけない。
そこで、山崎のうちに厄介になることを思いついたのだ。
「思いついたのだ、じゃないですよ;!そんな勝手な…;!」
「そんなことより土方さん。」
「ぁ?」
「本当に旦那のこと、諦めるんですかィ?」
「……それしかないだろ。また連れ出したところで同じようなことになる…アイツをこれ以上苦しめてどうすんだ」
「…そりゃ、まぁ…」
「…このままでいいはずがねぇ。それはわかってる。でも、正直、どうすりゃいいのかわからねぇんだよ」
この3日、床に寝転びながらあの日のことや、銀時奪還の方法を考え、模索していた。
それでも何も浮かばなかった。
どうにもならないことというのは、やはり存在するのだろうか。
「…結局、その旦那と土方さんは、縁がなかったんですよ…きっと。ドラマでも言ってました。”100%自分にハマる相手は、自然と自分と引き合って、一緒になるんだ”って」
「……ドラマはドラマだ。それ以上でも以下でもねぇだろうが。」
「でも、納得できません?運命の人、ってのは自然とくっつくもんなんですよ」
うんうんと山崎が頷きながら言葉を続ける。
「諦めるのがいいですよ。それが、解決策です。」
「……」
プルルルル―――
静寂を打ち消すように携帯の着信音が鳴り響く。
やる気がなさそうに土方がポケットから携帯を取り出す。
どうせ、店からだ。急にNo1が辞めたんで、店もてんやわんやに違いない。
しかし、着信画面を見ると、見たことのない番号が表示されていた。
「…?」
首を傾げながら通話ボタンを押す。
「…誰だ」
どうせロクな相手からじゃない。間違いかもしれない。
土方はドスの効いた低い声で電話に出た。
『…やっと出た。もう一回コールが鳴ったら切ろうと思った。』
最後のは――もちろん(ニヤリ)←ぇ
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