ムゲン18

15年前。京都。
俺には、親代わりの人がいた。
もっとも、親代わりをしてくれたのは、ほんの短い期間だったけど。
施設にいた俺を引き取ってくれたのは、白い髪が綺麗な、小さな学習施設を運営してる男の先生だった。
施設から引き取った俺に、その人は本当に優しくしてくれた。
文字を教え、この世界の厳しさも、教えてくれた。
俺が、今この世界で生きているのはその人のおかげ。
そんな先生も、俺を残して逝ったんだ。

その人が俺に、最後に言ってくれた言葉がある。

「人が生まれてくるのには理由がある――例え大勢でなくとも、誰かのために何かを果たせたのなら、人間は生まれた理由を果たせたはずだ」

俺には、まだ見つかってないんだ。
誰かに何かを果たす、なんて――出来てない。

だからまだ死ねないんだ。





10年前。歌舞伎町。
俺には、誰もいなかった。
生きることだけに懸命だった。そんな中自分の体までが悲鳴を上げた。
本当、絶望したよ。悲観した。すべてに。生まれてきたこと自体にも。
そんな時に自分に差し伸べられた手――それは、優しさに満ちたものなのだと、錯覚したんだ。


そいつは、俺の体をすぐに治した。
薬品流通の会社を経営しているとかで、あらゆる薬に精通していた。
俺の病気は比較的新しい病気だったんだけど、最近新薬が開発されて、本当にタイミングが良かったらしい。
血も吐かなくなって、医者に見てもらうとほぼ完治、とのことだった。
嬉しかった。感謝もした。
でも、そいつは、優しさや親切心で俺を助けたわけじゃなかったんだ。

「新薬っつってもな、試験薬でな。本来市場には出回らないもんだ。何故だかわかるか?」

俺は首を横に振る。

「副作用が酷いからだ。まァ例えば――」


その日からは、酷かった。
そいつは毎日俺に薬をイれる。それは単に苦しみだけをもたらすものであったり、媚薬であったり――
俺は、モルモットだった。
しかも殆どの薬は依存性が高く、薬が切れると頭がどうにかなりそうになる。

「た、か…す…っ;」
「銀時ィ。何回教えりゃ学習するんだてめぇはよォ?」

髪を掴まれて引き上げられる。
噛み付くようにキスを受け、目から涙が流れ落ちる。

「ク、スリ…くだ、さ…」

決まりごとを強要され

「ん…ぅ…っ…」

腰を振って

「ぁぁああッ――;!!」

薬を貰っても、貰わなくても、俺は”どうにかなってた”。





そして、今。
目の前には、前の俺の管理者と同じ真っ黒な髪をもった男。
でも、違うのは

「…なぁ。銀時。…お前、これからどうしたい?」

俺を気遣う手があること。
それは勘違いなんかじゃない。
俺を地獄から救い出してくれた手が、目の前には、ある。

「何でも言え。」

でもね、ダメなんだ。
俺には、まだ――残ってる。

「……さんきゅ。でも、何もねぇわ。…俺はお前といれるだけで、十分、かなり、すっげぇ、満たされてるし。これ以上望んだら、あとが怖い。」

あとが、怖い。

俺には、まだ――














「っ…;!」

あぁ、カミサマ、頼むよ――
もう少し、コイツと一緒に居させて。

「お、おい;!銀時;!?」
「ぁ、はぁ…っ;!」

何でもするから。
コイツ以外、何もいらないから。

「ど、どうしたんだよ;!オイ!!」

そんな顔しないでよ、多串くん。
お前には、笑っていてほしい。
爆笑した顔なんて見たことないけど、微笑むくらいの顔を。
お前の笑った顔って、超カッコイイ。
ほら、笑えって――

「何言ってんだ;!!総悟!!医者ンとこ連れて行くぞ;!!」

注射嫌いだってば、と呟くと、バカ言ってンな、って怒られた。
車に戻されて膝枕される。
あーぁ…せっかくの海…もう少し見ていたかったのに。

「!!…お前、ソレって…もしかして、あの夜と同じ…」

あ。バレた?
そ。あの日。お前が俺を助けて部屋に連れて行ってくれた日も、こんな状態になった。
そういや理由、話してなかったっけ。

「…くす、り…切れた…ンだわ…1日に2回…くすり、イれなきゃ…こう、なる…んだ…、依存…ってのかな…」
「…マジかよ…;」

びっくりした?でも、まだ続きがあるんだ。

「そのくすり…高杉しか…持ってない……だから、俺が、あい…つから、逃げられるのは…半日が、限界なんだ…」

ほら、これで理由もわかったろ?
結局、俺は高杉から逃げられないんだ。

「…なるほど。これで、全部繋がったな」
「ですねィ」
「…オイ。」

何?と俺が聞き返すと、モテるだろうその顔を近づけて聞いてきた。

「お前、高杉を愛してるか?」

俺は少し躊躇った後、小さく首を横に振る。

「じゃあ、俺と一緒に、これから、生きていきたいと思うか?」

何なんだろうこの質問は。
まるで、これからも俺と一緒にいます、的な――
薬がないと俺生きられない体になってんだよ?それなのに、お前と生きていく、なんて――

「どうなんだ」

そんな、思うか思わないかって聞かれたら――

「…一緒に、居た…い…」

YESとしか答えられねぇよ。

「そうか。」

満足そうに微笑む。
あ、それ。その顔が好き。俺。

「しばらく、苦しいだろうが、我慢してくれよ――必ず、助けて…治してやるから。」

何故だろう。こいつに言われると、本当に叶う気がする。

俺は、小さく頷いて、目を閉じた。


銀時独白形式〜。
20060428UP


 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送