ムゲン19
焦っていた。
どうしたらいいかもわからない。
目の前に苦しむ人間がいるのに。
それは――誰より大切な人間なのに。
「総悟ッ!まだ着かないのかよっ;!」
「制限速度ギリギリでさァ!!警察に捕まって時間食われたらそれこそ元も子もないでしょう!?」
「…ッ、おい!目ェ開けろ!!銀時!!」
土方の腕の中で苦しげに息を吐く銀時。
何度も何度も汗を拭いてやるが、引く気配もない。
やはり、高杉から掻っ攫ったのはコイツにはキツイ選択だったのか。
あの時、コイツが躊躇ったのはこのせいだったのか。
だとしたら、自分がとった行動は、コイツを苦しめるだけだったのか。
治してやる、と言ったものの、その方法など全くわからない。
高杉に銀時を返せば、確かに今のこの苦しみは取り除いてやれるだろう。
でも、コイツは言った。俺と居たい、と。
一度高杉に返してしまえば、おそらくもう2度と銀時とは会えなくなるだろう。
そんなことは出来ない。
とりあえず、今は最寄の病院に連れて行くしかないが…おそらく治せない、と突っ返されるだろう。
「くそ…ッ;どうすりゃいい…ッ;」
何の知識も、案も、自分にはない。それが苦しくて、歯がゆくて。
銀時を助ける、ただそれだけのことが出来ないなんて。
「ダセェ…情けねぇよ……」
「…土方さん。着きますぜ。」
病院に救急で入院させたが、やはり医師の答えは予想したとおりのものだった。
医師の話を聞きながら、ICUに入れられた銀時をガラス越しに見つめる。
汗が引かない。
呼吸も荒いまま。
表情は苦しげで。
医者の話では、このままでは、脳が機能障害を起こして植物状態になる危険性もある、とのことだった。
というのも今の銀時の体温は40℃近い。高熱の状態が続くと危ないらしい。
しかも、解熱剤を投与しても、普段からクスリ漬けの生活だったためか、効果を示さないらしい。
普段何のクスリを使っているのか。その成分が判れば、他のクスリで代用したり、取り寄せたりも可能だというが――
「――何で」
「…土方さん?」
「何でコイツがこんな目に合わなきゃならねぇんだよ…何で…ッ!!」
コイツが何をした。
何でコイツなんだ。
高杉がどうした。
許せない。
「…高杉のところに、行く。話して、クスリ、ぶん取ってくる。」
「!待ちなせェ!」
沖田に掴まれた腕を乱暴に振り払う。
それでも沖田はひるまない。
「今行って、クスリくれって言って聞く相手だと思ってんですかィ?」
「んなこと言ったってこんなとこで黙って見てろってのかよ!!」
「そんなこと言ってねぇでしょう!?」
「んじゃあどうしろってんだよ!!」
怒鳴りあったって何も解決しない。そんなことはわかっているのに――止まらない。
イライラする。自分に。何も出来ない自分に。
「…とにかく、何か考えましょうや。高杉からクスリを手に入れる方法――」
「やはりこうなるか。」
ICUが見えるこの部屋の扉が開かれる。
どこかで聞いた声。
「…お前は…」
「俺が言ったとおりになったろう?だから連れ出すのはよせと言ったのだ」
「桂…」
桂がICUにいる銀時を見つめる。
苦しげな様子に、桂自身も辛そうに見えた。
「諦めろ。お前には高杉の代わりは勤められない。」
「ッ!ふざけんな!!高杉のヤローが何してるっつーんだ!!こんな…銀時を苦しめてるだけじゃねぇか!!俺は…高杉の代わりになんかなる気はねぇ!!返すつもりもねぇよ!!」
「ならばどうする。このままでは銀時の体はもたない。」
「――ッ;!!」
確信を突かれて言葉が出なくなる。
正直、何の案も出てこない。
「…以前――」
ポツリ、と桂が呟く。何かを思い出すように。
「銀時に聞いたことがある。もう一度、会いたい人間が居る、と。」
「ヅラ…」
「だから桂だと…」
「…ぜんざい頂戴。食べたい。」
「…?……あ、あぁ。」
「俺さ、もう一回会いたい奴がいるんだ。…今までに2回、会ったことあるんだけど、もう一度会ったら聞きたいことがあるんだ」
俺は、銀時の口から自分の過去やら願いやらを聞いたことが無かった。
当然、興味をもった。どんな奴だ、と。
「キラキラした奴だったよ。すっげぇカッコイイの。ムカつくくらいな。最初に会ったのは雪の日でさ、すっげぇ寒かった。高杉に会ったのと同じ日、ソイツに会ったんだ」
黒い髪がキレイ。
太陽に反射する瞳がキレイ。
よく通る男っぽい声がキレイ。
「肩がぶつかって怒鳴られたんだ。ゴメンって言ってそれだけだった。――2度目に会ったのは、この間。俺、逃げたろ?あの時。そん時はソイツだってわからなかったんだけど、キレイな髪も瞳も声もそのままだったよ。何も変わってなかった。…相手は覚えてなかったみたいだけど。」
ま、実際、俺も忘れてたんだけど。
「ソイツが、言ってくれたんだ。」
『でも、待ってろ…絶対、戻ってくるからよ』
「だから、決めた。」
俺、待つわ。
あの、黒い髪の、あの雪の日の相手を。
そして、俺を助けると言った男のことを。
「美味…」
だから、早く来い。土方。
「…忘れてるわけねぇよ…」
「……」
「あんなキレイな奴、忘れられるはずがねぇ…」
「お前…やっぱり……」
「…あの雪の日は、本当に寒くてな。脳裏に焼きついて離れやしねぇ…」
ICUの銀時を見て笑みを浮かべる。
「そうか…覚えてたのか…お前も…」
覚えていた、それだけのことに胸が熱くなる。
それと共に、助けられない自分への不甲斐なさに更にイラつく。
「銀時……俺、何がしてやれんだ…?お前を、助けたいのに――」
「……」
ハッと桂の目が見開かれる。
「マズイ…ICUに居る看護婦を外に出せ;!」
「は…;?しかし今坂田さんには点滴を…」
俺達に話を聞かせていた主治医が首を傾げる。
「おい、桂…お前何言って……」
「高杉はわかっていたんだ…!お前達が来ることが…!!だからあらかじめ”あのクスリ”を銀時に飲ませた…!」
「”あのクスリ”…って…――!?」
直後、ICUには看護婦の悲鳴が響いた。
おおおおおお終わらせたィィィィィ……(ぷるぷる)
あ、次回流血描写なんで嫌いな人は読み飛ばしてくださいませー。一応裏指定にしますが。
20060603UP
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