001.最も永く続く愛は、報われぬ愛である。(モーム)

「あー…さっむ…」

季節は冬。
俺は今年で3度目になる場所に向かっていた。

「何にもこんな寒い日選ばなくてもよかったのにさぁー」

毎年この日、俺はココに来る。
左手はポケットに入れてカイロを握り、右手には花束を握って。
その場所は江戸の街を見渡せる高台で、見晴らしがよかった。
ナニがあるわけでもないが、高台のど真ん中にドンと木が立っている。
街に天人が入り込んでから、それまで進められていた都市化の並が急速に進み、自然が徐々に失われた街で、
その巨木は、御神木といわれてもおかしくないほどの存在感を放っている。

「こんな場所まで来させて罪な男だねー」

その木の根元で足を止める。

ここに来るのは3度目。
1度目は――

「あーしーいーたーいー!」
「…」
「トーシー!!おんぶー!」
「……」
「おんぶぅぅぅー!!」
「だぁぁぁぁ;!乗りかかってくんな重ィだろうが;!!」
「んなこと言ったってさぁー…か弱い銀ちゃんにこんな山道登らせて…何のつもりよ?」
「…いいから黙ってついて来い」

俺が万事屋で暇をもてあましていたとき、土方が訪ねて「行くところがある。ついて来い」とノックもせず開口一番言い放った。
久しぶりに土方が来たのもあって、ろくに理由も聞かず、ついていった。
――それが1時間前。

「江戸の街がこんなちっちゃい…かなり登ってきたんじゃない?」
「もう着く」
「…あ。」

着く、と聞こえた瞬間、進んでいる方向を見やるとかなり大きな木が立っているのが目に入ってきた。

「コレって…俺のうちからちっちゃく見えるでけぇ木…って何;!?俺そんな遠くまで来てるわけ!?銀ちゃんバイクにも乗らず!?すげぇ!」
「お前の感動するところはそこかァァ!!」

根元に到着して巨木を見上げる。

「…トシが連れてきたかったのってココ?」
「あぁ。…座るか。」
「ぁ、うん」

座って早々土方はいつものタバコに手をつけた。
だがいつもと違うのは

「…手、震えてるけど?」
「…うるせぇ…緊張してんだよ」
「緊張?何、クソしたいの?」
「違うわァァ;!…ちっ、何でてめぇは…」

何だよ、と言い返そうとした瞬間キスされていた。
タバコを吸いたての唇から苦味が伝わる。
――これはトシだけが出来るキスだよなぁ、といつも思う。
軽く触れただけで離れた。

「…明日、でけぇ戦がある」

至近距離で呟かれた言葉が、耳に吸い込まれていく。
即座に俺は意味を理解した。

「…危ないんだ?」
「少なくとも無傷では帰れない」
「……そっか」

真選組、という仕事柄、そして刀を握る人間として避けては通れない道。
もちろん命をかけるようなバカなことは止めたい。
だが、近藤に忠誠を誓い、その行動に身を委ねる土方の姿は
かつて自らが参加した攘夷運動とは違った志のような気がして、
そんな土方に「止めろ」というのは何だかお門違いなような気がした。
何より、自分が言って素直にやめるような志ならそんなもの持っていても仕方ないのだから。
そして、土方はそんな男ではないのだから。

止めない。そして、――泣かない。

「…勝手言って悪ィ」
「いーよ。わかってる」

土方の胸に抱き寄せられた。
タバコの匂い、土方の匂い。
そっと目を閉じる。

「…ここで、会おう。」
「…?」
「毎年、ここで会おう。俺が…どういう状況になっても、お前はココに来い。約束だ」
「…ココに来れば会える、って?」
「……そうだ」

抱きしめられた。
その腕が、顔が、叫ぶ。
―― 一緒にいたい。

「…ん」

抱き返した。
その腕も、顔も、叫ぶ。
―― いかないで。

「…愛してる」

2度目――

一人で来た。

待っても待っても来なかった。

「…うそつき」

花束をその場に投げ捨てて帰った。
夜の山道は降りるのに一苦労だった。

わかっていた。会えないことは。



1年前の約束の、1ヵ月後。
土方の番号で、携帯に電話が入った。
無事に戦を終えたと伝える電話だと思った。

「…坂田さんか。俺だ。近藤だ。」

それは待ち望んだ人の声ではなく。

「悪いな。本当は直接行って伝えたいんだが、どうもドタバタしちまって…」
「いや、大丈夫。ちょいビビッたけど。」

俺の携帯へ、土方の上司から電話。
つまり、持ち主は――

「トシが、死んだ」

――いない。

「…伝えてくれて、アリガト。こんどーさん。」

真選組はかなり壊滅的打撃を受けたが戦には勝利。
しかし、土方は隊の先頭をきっていき、敵の仕掛けた爆弾にやられたらしい。
土方のことだ、見方に危険を知らせるため、わざと爆弾のある場所を自ら示したのかもしれない。
そういう、やつだ。土方は。
そういうわけで体が吹っ飛んじまったわけだから当然葬式は遺体なし。
俺は「火葬か土葬か選ばずにすんで良かったじゃん」ととぼけて見せたが、空振りだった。
声が、震えていたから。

2度目の巨木の下。約束の場所。
会えるなんて思ってたわけじゃない。

でも、来ていた。
約束まで、空振りだった。


そして、今回が3度目。

2度目同様、期待して行っているわけじゃなかった。
寒い風の吹く中、木に凭れて座る。

2年前、ここでキスされた。
2年前、ここで抱きしめられた。
2年前、ここで約束した。
2年前、ここで愛していると囁かれた。

冷たい風が体を包む。

コレじゃない。
待っているのは、温かいんだ。
こんな冷たい世界じゃない。

目を閉じて立てた膝に顔をうずめる。
風が目に入って、泣いてしまいそうだった。

「うそつき…会おうって…言ったくせに…」

待っても来ないとわかってる。
でも約束だから来ねぇと仕方ねぇじゃねぇか。
こんな方法で縛るなんてズルイ。

「…トシ…」

―――最も永く続く愛は、報われぬ愛である。


END

死ネタは読むの好きじゃないけど、書きやすいです。根暗だから?(痛)
実はこれ続きあるんです。
読むぞ!って人は↑のEND?の”?”へ。
20050914UP








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