伝えたい伝えたくない
土方に別れよう、というのは、思っていたより簡単なことだった。
言う瞬間より、言ったあとの方が、辛かった。
「…そうか」
アイツは特に反論することもなく、そう言って立ち上がった。
そしてデートの時にいつもそうしてくれていたように、伝票を持ってレジに向かっていた。
俺も特に何も言わず、最期になるであろう相手の後姿を見送った。
「……」
パフェに視線を戻す。
土方が店を出て行く。
勝手に目の前が霞んでいく。
パフェグラスに水分が落ちる。
あぁ、ダメじゃん。パフェに塩分交じりの水分なんて有り得ない。
なのに、止められなかった。
俺は、店の隅っこで、泣いた。
別れ話から1週間後。
「真選組副長、土方十四郎だな?」
「……」
気分が凹んでいるときに限って、立て続けにウザイことが起きるもんだ。
今日のこの瞬間もまたしかり。
「…だったら何だ。」
「真選組の頭脳、土方…天誅。死んでもらう。」
真選組に帰る近道である路地裏に入ったときに囲まれた。狭い路地では前後に3人も居れば囲まれている状態になる。
しかも、だ。相手はあらかじめ俺がココを通るときに襲撃することを計画していたようで、腰には脇差し程度の長さの刀を用意している。この狭さでは通常の刀ではリーチが長すぎる。なかなか計画的だ。
「大人しく裁きを受けろ。」
「…ウゼェな…」
「何…!?」
「俺は今猛烈に機嫌が悪い。」
狭い路地で、攘夷派との喧嘩が始まった。
別れ話から十日後。
「え?」
「い、いやっ;知らないならいいんですけどっ;!じゃあ俺これで失礼し…」
「ちょ、待てよ;!」
真選組にいる…ミントン好きの地味な奴が万事屋に来た。名前は…覚えてない。
ソイツが来て言った言葉。
「副長はこちらにお邪魔してませんか?」
いやいやいや。
俺達別れたからね。お邪魔してるわけ無いしね。
――とは言えず、
「ココには来ないと思うけど?どした?」
「いえ…実は3日前から屯所に帰ってなくて…。携帯にも連絡通じないし…」
と、そこまで言って、秘密を漏らした自分の失態に気付いて慌てて口を押さえる。
まったく。そんなんで真選組、よく無事だな。
――と言う余裕はなく、
「え?」
どういうことか、と目を見開く。
3日も音信不通?真選組に?あの仕事人間が?
それって――
「い、いやっ;知らないならいいんですけどっ;!じゃあ俺これで失礼し…」
「ちょ、待てよ;!」
帰りかけた相手の腕を掴んだ。
きっと、今の俺の顔、かなり余裕がない。
「それって…もしかして、…攘夷派、とかに…」
「………。」
ジミーが急に真剣な表情をして俺を見上げた。
「…屯所近くの路地裏で…副長の血痕が見つかりました。急ぎで鑑定にかけて、今朝わかったことです。」
「け、血痕…;」
「恐らく刀傷による出血のはずです。地面に広がった血の量は相当のものでした。」
「…そこに、土方は倒れてなかった、のか…?」
「…はい。血痕以外の手がかりは全くなし。…考えたくないですが、もし、副長が負けていたとしても、攘夷派は死体を持ち帰ったりはしません。推測ですが、攘夷派は副長にとどめをさしたつもりで現場を後にし…その後、副長は意識を取り戻したんじゃないかと…。でも、地面の血の量から、そんなに楽観できる状態ではないはずです…。早く見つけないとマズイ。」
「…血痕がみつかったのは?」
「3日前です」
「3日……」
もしジミーの言うとおり、土方が行動していたとしても、3日も傷を塞がずに居ては出血多量で死んでいるはずだ。しかし、現場から少しでも動けたのだとしたら、近くの病院にでも入ったのかもしれない。
それをジミーに聞くと、「大きな病院には当たりましたが手がかりはありません。今、隊士フル稼働で小さな病院にも範囲を広げています」とのことだった。
「…聞かせてくれてサンキュ。俺も探してみるわ。」
「!…助かります!」
じゃあ自分はもう少し聞き込みするんでよろしくお願いします!
と、普段虐められている上司のために賢明に動く地味な隊士を見送った。
「……あのバカ…どこ行ったんだか…」
どこ行ったんでしょう。(え)
20060821UP
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