伝えたい伝えたくない

何だ?こいつは何言ってるんだ?
どうしてこんなことになったんだ。
考えるほどのことじゃない。全部、俺の身勝手だろ。

「悪い。今日も仕事、夜中までかかる。」

1ヶ月ぶりに会おう、と約束していた日の夕方、俺がアイツに持たせている携帯に、そう連絡を入れた。

「…悪い」
「もういいよ。わかった」
「…この借りは、後日返すから」
「前もそう言った。もういいから。切るよ?」

アイツの声は、俺を責める言葉を吐きつつも、穏やかだった。
今思えば、このとき既にお前は決めていたのかもしれないな。
俺との、最期を。

「…悪い」

その時は謝るしかしなかった。こんなやりとり、もう何回目か知れない。
付き合ってもうすぐ1年。なのに、本当に、もう、何回目なのか。
そして、お前を今すぐ抱きしめに行きたい、と思ったのも、もう、何回目なのか。

そして、今、俺の目の前で、いつもの表情、口調で俺に突きつけられた言葉は、俺に衝撃を与えるには十分すぎる威力を持っていた。

「別れようか、土方」

待ってくれ、と。
俺はお前が好きで、もうどうしようもなくて。
会いたくてもそうもいかない毎日にイラついて、日に日にタバコの量は増していっていて。
今日、たまたま巡回中に見かけたお前の姿に、どれだけ心が躍ったか。
なのに、そんな。

「……」

言葉を見つけられずにいた俺を見て、アイツは苦笑しながら、溜息を漏らした。
最終宣告を、するために。

「もう、限界なんだ。」



その後、自分がどうやって屯所に帰ったのか、覚えていない。
書類への判押しを済ませ、近藤さんに手渡し、風呂に入って、床に入ったはずだ。
今、考え込んでいる自分は、布団の中にいるのだから。

部屋の窓から見える月。
お前も見ているか?
いや、でも。見ていたとしても、それは俺と同じ気持ちで見ているのではないんだな。
俺は、お前を大事にできなかった。結果、お前は俺に愛想をつかした。
当たり前だ。当然の結果だ。
なのに、俺は今どうしようもなく後悔している。
何故お前に、安心を与えてやれなかった?いいたいことなど、伝えたいことなど、腐るほどあるのに。
別れてから、伝えられなかった言葉が、頭に溢れ返る。今更だ。どうしようもないだろう。
なのに、俺は。

お前のいない明日からの生活は、どんなものなのだろう。
きっと、何もかも霞んで見えるんだろう。



土方の後悔。
20060818UP

 





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