作戦5

屯所を出た銀時は万事屋に帰る気にもならずふらふらと川原に足を向けていた。

「癌…か。そりゃそうだよな。アイツ俺といるときもいーっつも煙草吸ってたし」

何度か「もう止めたら?」と口を出したことはあった。
でもその度に「いいだろ別に」と大してとりあってもらえず流されていた。

「こんなことならもっと必死に止めとくべきだったかなー…」

いくら別れたとは言っても死なれれば後味悪いじゃねぇか。
あんな蒼白な顔見て平気なほど、自分はまだふっ切れてはいなかったから。



土方から別れを切り出されても、自分では何ともなかったつもりだった。
もともと男同士で、まともな恋愛とは程遠かった。
告白してきたのも土方からで、自分にはそれを断る理由もなかったから承諾しただけ。
アイツといるのは確かに面白かったし、顔も悪くない。稼ぎもそこそこあるし。

何より、自分といるときの土方は、普段周りに見せている顔とは違って
どこか安心しているような顔をしていたから。
自分だけに見せる顔。
そんなことに優越感を感じていた自分。

「俺だって――」

好きだった。
手に入れて、近付いて、それから気付いた気持ち。

一緒に街をブラついたり、
たまに遠出して温泉に泊まりに行ったり、
新八や神楽が寝静まった後こっそり土方を自分の部屋に入れたり。

飽きなかった。毎日のように一緒に居て、騒いで、それでも全然足りなくて。
でも言えなかった。
お互い男。
相手は忙しい真選組副長。
自分は貧乏暇人自営業。
それでも疲れた体を奮い起こして自分に会いに来る相手。
自分から会いに行けばよかったのに、それも結局相手の仕事の邪魔になるだけ、と
自分に言い訳をして動けなかった。
本当はそんなことを気にしているんじゃなかった。

自分が必死に求めることに抵抗があったのだ。
これ以上深入りするといつかの別れのときに辛くなる。
別れを意識するのは昔からの癖なのかもしれない。
幾度と無く死別を経験してきたから。

相手に尽くしてもらっている自覚はあった。
だからこそ余計に言えなくなった。我侭も何も。

別れようと言われた時ですら言えなかった。
「疲れたんだ、もう」
そういわれるのが怖かったのか。
引きとめようとした手はもう片方の手が押さえ込んだ。
「冗談じゃない」と叫ぼうとした喉は瞬間に渇いて声を失わせた。
泣きおとすための涙なんてもとからないし。
だから「わかった」としか言えなかった。
予防線が、効果を発揮したのかもしれない。

自分は淡白な方だ。
昔から何故か男にはモテた。高杉、坂本、桂…
アイツらは「付き合え」とは言わなかったが、何度か体を重ねたことはある。
それでも何も感じなかった。快感以外には何も。
でも土方は違った。
触れられた部分全てが熱を持っていく。
耳元で甘く囁かれるだけで自分の体が大きく震えた。
初めて自分を失った。

「愛してる」

こんな短い一言がこんなにも自分を突き動かすのかと思った。



「何だよなー…ほんと…結局未練タラタラなんじゃん俺…」

情けねぇなぁ、と川原に横たわって呟く。

青い空を見上げる。
あぁ、そのうち土方は自分を残してあそこにイッちまうのか。
自分の中にこんなもやもやを残して。

「…それは、ヤダな」

ゆっくり起き上がる。

アイツが死ぬ前に一度だけ自分をぶつけるのも悪くないかもしれない。
かっこ悪いのは初めからだ。
跳ね除けられたって今更だ。

銀時は川原からもと来た道を逆走した。



銀時の気持ちでした。
20050808UP

 





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