002.一緒に泣いたときに、はじめてお互いがどんなに愛し合っているのかがわかるものだ(エミール・デシャン)

「別れようか」
「…わかった」

ガキがいない万事屋で、いい大人の男二人が呟いた。
それは諦めでなく、決断。



「で、この間の殲滅作戦で隊員が5、6人殺られてな」

話のきっかけは、土方が最近の仕事の事を言い出したのがきっかけだった。
普段、土方は銀時に仕事の話はしない。
なのにこの日に限って自分から話し出した。
何か言いたいことがあるんだ、と銀時は早々に察していた。

「そっか。…それで?」

回りくどく話すのは土方の癖だ。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。

「ああ…それで……」
「……」

重い空気だった。
何を言われるのかも、大方想像がついていた。

「別れようか、銀…」

タバコを灰皿に押し付け、俯いたままそう言った。

「…言いたいことはわかるけど、もうちょっと説明してくれる?」
「…お前、俺のこと好きだろ」
「あら自意識過剰。」
「間違っていないと思うが?」
「それならトシだってそうだろ?」
「ああ。だから、言ってる。」

向かい側のソファに腰掛けている銀時は覗き込むように土方を見た。
感情は読み取れなかった。
押し殺している、そんな感じだったのかもしれないが。

「いずれ、攘夷派を消すために俺達は大きく動くときが来る。」
「うん」
「お前の旧友を消すことになる」
「…うん」
「そのときお前はどうする」
「…多分止めるだろうね。」
「…そうしたら、俺はお前を斬らなきゃならねぇ」
「簡単に斬られるつもりはねーよ」
「俺もだ。…今は、な」
「……」

共に過ごす時間がやけに心地よくて、自然に一緒に居るようになっていた二人。
付き合っている、なんて自覚がはっきりあったわけじゃないけど、確かに惹かれあっている。

土方の言いたいことは、わかる。

土方が桂達を斬る、とわかったらおそらく銀時は止めようとするだろう。
それは土方を敵と思うとか、土方より桂が大切だとかそういう問題じゃない。
昔共に戦った仲間を守りたい。死なせたくない。
その気持ちは土方にもわかるのだ。
だから銀時を説得しようともしないだろう。
だが土方は近藤に従うと誓った。その誓いは絶対に違える事はない。
そうすれば、いずれは銀時を斬らなければならないときが来る。

だが――斬れるだろうか。

今なら、何とか、なる。
しかしこれ以上のめりこんだら、わからない。
手放せない存在になりつつある。お互いに。

斬れるか――俺に。銀時を。

「…別れよう。その結論しか、俺には出せない」
「…わかりやすくていいんじゃない?」

銀時も否定したりしなかった。
迷いが出そうだというのは本当のところだったから。

「…わかった。別れよう、トシ。」

――でも、今日だけは、いいよな。

そう言って土方に笑いかけた顔はいつもとかわらなかった。





1年後

「…やっぱ、あれだな。予防線っていうのは必要なもんだな」
「同感。」

とある屋敷の屋根の上で、一年ぶりに二人で話しをした。
それぞれの右手には刀を構えて。
眼下には真選組と攘夷派が刀を交える金属音が延々続いていた。

「あれ?ちょっと痩せたんじゃない?」
「そうか?そうかもな」
「俺もさー最近パフェ食ってなくてさ。奢ってくれる奴がいないから」
「そうか。そりゃあ災難だな」
「…んじゃ」
「ああ」

刀を構えて相手を見据える。
この1年、お互い忘れもしなかったその顔を。

「死んでも恨みっこなしな」
「こっちの台詞だ」

次の瞬間、二人の目の前は真っ赤に染まった。





1年前

「じゃあな。…次に会うときは」
「あぁ、わかってるよ」
「…そうか…」
「おやすみ、トシ。」
「…ああ。」

ゆっくり閉じられた万事屋の扉。
今ならまだ、止められる。
やっぱり別れたくないと、叫べたのに。

「…意地っ張り」
「…お互い様だろ」

閉じた扉を挟んで呟いた。

「…当ててやろうか」
「…ん?」
「お前、今、泣いてる」
「…ジョーダン言うなっての。誰が泣くかよ」
「俺にはわかんだよ。…銀時。お前のことなら、わかる」
「…なら俺にもわかるし」
「ぁ?」
「トシも、泣いてる」
「…ジョーダン。」


―― 一緒に泣いたときに、はじめてお互いがどんなに愛し合っているのかがわかるものだ。


「…おやすみ、トシ」
「ああ。」

階段を下りていく足音が、どんどん小さく遠く離れていく。
ずるっとその場に座り込みながら、その足音が近づいてこないかと、ずっと耳を澄ませていた。

おそらくは、再会までの1年間、ずっとずっと、待っていた。




1年後

「わ、かれた…の、意味、なかった…よ…」
「…ぁ…?」
「だ、て…一度、も…忘れたこと、なかった…」
「……なる、ほどな…」
「トシも、だろ…?」
「…あぁ」

屋根の上に転がって、
いい大人の男二人が呟いた。

「そんな、ことなら…一緒に…いればよかった…な…」
「そう、だな…」

周りの音が遠ざかっていくように聞こえた。
それは1年前の足音のように。
徐々に小さくなって、消えた。

「…銀…?」

最後に聞いたのは、ずっとずっと待っていた――声。








また死ネタだよ…暗いのばっかですみません;
んであいかわらずわけわかんなくてすみません…。
まぁ物書きではないので…お許しを;
20050916UP







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送