ムゲン14
「さて、ついに着きましたねィ。目黒。」
「…あぁ。」
土方と沖田の乗った車は目黒の豪邸の傍に止められている。
その見据える豪邸は、高杉の自宅。
そして、銀時がいる場所。
「策、あるんですかィ?いきなりチャイム鳴らしてはいどうぞと入れてくれるはずはないですぜ?」
「わかってる。…とりあえず、少し屋敷の様子を見る。せめて銀時がどの部屋にいるかがわかれば…」
屋敷を見据える2人の動きがぴくっと止まる。
屋敷の前にリムジンが横付けされたからだ。
車はなるべく見えない位置に止めているが、念のため身を低くする。
かろうじて見えるリムジン。
屋敷から出てきた男。
運転手が開いた扉から乗り込む。
眼帯。鉛管。着崩したスーツ。およそリムジンに乗るような人間には見えないが――
「…あれが、高杉…?」
「でしょうねィ。社長クラスでもなきゃあんな高級車乗れねぇはずでさァ。」
暫く男の様子を伺う。
運転手に何か告げると、男の乗った車は屋敷を離れていった。
「間違いない、だろうな」
「行きますかィ?」
「…山崎の話だと、この屋敷にはメイドが数人いる以外、社員も裏の仲間とやらも近づかないらしい。…高杉もいないなら、のりこむチャンスだろうな」
「じゃあ」
「あぁ」
2人は車を降りて屋敷に近づいた。
「…全部しめきってやがる…」
屋敷に近づくと、窓もカーテンもすべて閉じられているのがわかる。これでは中をうかがうことは出来ない。
「……銀時。」
助けると決めたあの日。
銀時と再会した、あの日。
きっと相手は覚えていないのだろうが、自分は、アイツの銀色に、惚れ直したんだと思う。
だから、助けたいと思った。
数年前の雪の日。
あの時は手が届かなかった。追いかけることも出来なかった。俺はまだガキだったから。
でも今は違う。
あの手を握りたい。
もうあんな苦しい顔をさせない。
雪の日に見た、アイツの笑顔を、もう一度見たい。
「…銀時――ッ!!!」
気がついたら叫んでいた。
ここにいるんだ。アイツは。
早く、もう一度会いたい。
「――!」
土方の声は銀時のいる部屋まで聞こえていた。
「あの、声――」
聞き覚えがある。低く響く、でもどこか安心する声。
「土方――?」
ふらっと立ち上がり窓に近づく。
白いカーテンをめくってガラス越しに庭を見下ろした。
「…銀時」
「…土方」
見上げた2階に見えた待ち焦がれた銀色。
見下ろした庭に見えた待ち焦がれた漆黒。
「……助けに来た。」
土方は多くを語らず、短く、そう言った。
普通の声では窓の向こうの銀時には聞こえないかもしれない。
でも、きっと伝わるだろうから。
「……」
銀時が頷く。
「土方さん。こっち」
庭を探索していた沖田が土方に、2階への足がかりとなりそうな木を指差す。
その木から銀時のいる部屋に届きそうだ。
2人で木を登る。
銀時のいる部屋の前には突き出した1階部分の屋根がある。
木からそこへ降り立ち、銀時の立つ窓に近づいた。
「開けられるか?」
窓を指差して尋ねるが銀時が首を横に振る。どうやら開くことは出来ないらしい。
「土方さん、旦那。下がってくだせェ。」
「ぁ?…って」
ピシュッ!!
「のわぁっ;!?」
土方の隣に降り立った沖田の手から銃弾が飛び出す。
2人の持ち出した銃にはサイレンサーがつけてあるため、周囲に音は響かなかったが突然の発砲に土方も、銀時も慌てる。
「いきなり撃つ奴があるかこのやろォォォォ;!!!」
「いいじゃないですかィ。ほら。鍵は壊せたんですぜ?」
沖田の放った銃弾は綺麗に窓の鍵の部分を貫通していた。
土方がゆっくりと窓を引いて開く。
「――またせたな。」
「……本当。待たせる男はモテねぇぞ。」
軽口が心地いい。
まともに話したことなど1度しかないのに、ずっと昔から知り合いのような自然な空気。
部屋に降り立つとすぐに銀時の体を抱きしめた。
会いたかった。
たった1度会話しただけだけど。
「…銀時。会いたかった」
でもそれは
「…俺も。土方クン。」
お互い様、だったみてぇだな――
とりあえず1度土方と銀時で会話させたかった。
20060216UP
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